「いつも仕事じゃ、良い唄はうたえないから……」
 そういって、やり手のマネージャさんは、私に二週間程のオフをくれた。
 降って涌いた突然の長いお休み。
 どうしようか、なんて考えるのも楽しみの内。

 でも、やっぱり……。

 ママの居るクリステラも捨てがたかったけれども、それ以上に私には会いたい人達が……人がいた。

 だから、私は機上の人となって、あの人の元へと急ぐ。
 一秒でもはやく、同じ空気で、同じ空の下で、笑いあっていたいから。

「桃子、美由希、なのは、レン、晶……恭也、元気でいるかな?」







5000リクSS
FOOL/愚者









 折りしも、日本は春休み。
 数少ない休日を、ゆっくりと過ごすには丁度良い季節。
 空港ロビーに足を踏み入れた私を待っていたのは、愛しいあの人だった。

「フィアッセ、こっちだ」
「恭也♪」

 ジャケットに、スラックス。色は暗めでコーディネイトされた男性。
 シルクのような髪はジャマにならない程度に切られていて、合間から除く瞳が力強く、とても印象に残る。
 それが、私の一番大切な人、高町恭也。

「荷物、持とう」
「Thank」

 口数は少ないけれど、とってもやさしいの。

「ねぇ、恭也。お家に帰る前に……少しだけ二人でゆっくりしない?」
「あぁ……そうだな、それも良いか」
「決まりッ! 良し、あのお店に入ろう、ね、恭也」

 二人、笑顔をかわす。
 それだけで幸せになれるんだから、私も安いのかな。





 喫茶店の店内は明るい雰囲気で、高校生の少女とかが好きそうな感じ。
 元翠屋チーフとしては、客層を絞った作りに、ちょっとだけ感心してみたり。
 でも、翠屋の方が好きだな〜なんて贔屓目にみたりした。

「フィアッセ……実は」
「Ah、ウェイトレスさぁーん! 注文良いですか? ホラ、恭也も注文しようよ」
「あぁ、俺は……そうだな、ブレンドを」

 私はアールグレイの茶葉で抽出れたミルクティーを頼む。
 クリステラが英国にあるからか、それともパパが典型的な英国紳士だからなのか、理由は判らないけれど。
 Song Schoolにも TEA BREAK の時間が存在していた。
 懐かしいな……皆で食べたスコーンの味。


「フィアッセ、実は……」
「Ah、Thank。Oh、British Tea break! 冷めない内に飲もうよ、恭也」
「……あぁ」

 ゆったりと時間が流れていく。流れるムーディな音楽が、何処か物悲しく私には聞こえてくる。
 私は、恭也からの何とも言えない視線に、居心地の悪さを感じていた。
 そう、まるで別れ話の典型みたいな……。
 こんな、こんなドラマみたいなこと……。絶対、違う。違うんだから。

「フィアッセ、真面目な話なんだ、聞いてくれ、頼む」

 恭也が頭を下げた。
 恭也はいつも礼儀正しいけれど、少なくとも人前では私に頭を下げることなんてしない。

「大事な……話なんだね?」
「あぁ」
「今すぐ、じゃないと駄目なんだよね?」

 恭也は二度目の問いかけに、無言で頷いた。
 私は……といえば、仕立ての良い陶磁器のカップの中で揺らぐ水面を見つめていた。

「話して、恭也の――恭也が考えた大事な……私たちにとって大事なお話を」
「……」

 促したというのに恭也は喋らない、口を開かない。
 やさしいから、きっと言葉を選んでいるんだ。恭也は一度決めたら、戸惑うような人じゃないから。
 私は、13階段を一歩ずつ、ゆっくりと昇っていくような、そんな感傷に囚われていた。



「愛したい人が……出来た。フィアッセじゃない、別の人だ」
「そう、なんだ……」

 躊躇ってから、真摯な瞳で語りだした。想像通りとはいえ、あんまりな未来に……不覚にも視界が震える。
 顎をくすぐる湯気が、暖かくて……不覚にも涙がこぼれそうになる。

「どんな人なの? やっぱり私が知っている人なのかな?」
「あぁ」

 涙を見られたくないから、いつもよりも早口でまくし立てる私。
 恭也は、いつもよりも口数が少なかった。私に、負い目があるからなのだろうか?
 彼の心が離れてしまった以上、負い目も何もないのだけれども。

「Ah、もしかして、美由希? 美由希じゃしょうがないな、美由希可愛いもんね」
「美由希じゃないんだ」
「Ah、それなら忍か那美? 二人ともいい娘だもんね?」
「月村でも神咲さんでもない」

 キッパリと答える恭也の姿に、本気で相手を愛していることを知ってしまう。
 こんな、あんまりな現実、知りたくなんてなかったのに……。



「晶でもなければ、レンでもないし、フィリス先生でも、ノエルでもない。ちなみにいっておくが、なのはや久遠は問題外だ」
「えとえと、それじゃリスティさんや、ゆうひ、神咲薫さん、槙原動物病院の医院長さん?」
「それも違う」

 さざなみ寮メンバーは違うんだって。

「じゃぁ……忍の若くて奇麗な叔母さん、レンの担任の先生、イレインさん?」
「違う。……見てきたように知ってるな、フィー、特にイレイン」

 1世代も違うみたい。……ところで1世代って何?

「女子剣道部主将の藤代さんや、翠屋Aコックの松尾さん?」
「違う、第一藤代さんはともかく、松尾さんは列記とした子持ちだろうに……」

 3サブメンバーも違うの……?



 沈黙。



「まさか……ティオレママ!? 嫌だな、私、恭也をおと―さんって呼ぶの……」
「違う!! まったく、どこからその発想が出てくるか、そっちの方が俺は知りたい……」

 ママでもない。


 沈黙。



「まさか……美沙斗!? あのスレンダーなボディと禁断の関係に心が引かれたの!?」
「美沙斗さんは越えるべき壁だ。そういう目で見たことはない。……それよりも、フィーは俺が特殊な性癖の持ち主だと思っていたのか?」
「えっと……あははは」

 笑って誤魔化そう。恭也の額に浮かぶ青筋を見たとき、そう心に決めた。





 沈黙。
 そう、ワタシは何となく答えを知っていた。
 怖いから、聞きたくないから必死に別の答えを探そうとしていたのだ







「もしかして……まさか、万が一、そんなことはないと思うけど……桃子、なんてことないよね?」

 私は一縷の望みをかけて、問いかけた。











「あぁ。桃子だ」
「呼び捨て!?」





「既に妊娠している、間違いなく俺の子供だ」
「種付け済み!?」





「入籍は流石に出来ないけれど……この後、披露宴もどきをしようと思っている」
「計画的犯行!?」










「そんな、そんな……違う女の元へ逝くなら未だしも、よりによって桃子だなんて……」
「? フィー?」
「私が英国で歌を歌っているときも、桃子と乳繰り合っていたなんて……」
「どうした、フィアッセ? やっぱり、長旅で疲れたのか?」
「恭也ッ!!」
「な、何だ?」
「……貴方を殺して、私も死ぬ!!」
「めっさ、短絡的!?」



 サクラが舞う春の日。局所的に、黒い落雷が発生しました。












 PS
 4月1日でした、テヘッ。









 後書き

 A、HA、AHAHAHAHAHAHAHA……。
 微妙な上に、時機外れですいません。
 リクエストは恭也×桃子のギャグ。現実は……恭也×フィー前提。恭也×桃子(嘘)
 ももこっちは、一コマも出てきませんでした。果たして、これでリクエスト条件を満たしているのかどうなのか?
 
 
 (03,12,20 作成協力 Woods様)


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