長期休暇。それは学生に与えられた唯一の特権。学生さん以外、だれがコレほどまで大きな休みを与えられるだろうか? 一部の例外をのぞき、それは特権なのだ。醍醐味なのだ。
 そのバリエーションも豊富。日本のスタンダード所でいえば、春休み、夏休み、冬休みの3休み姉妹シスターズ……スールズ?を初め、地域ごと、学園毎、によってとその特色も様々。
 それら休暇の基本期間は夏期休暇が一ヶ月ぐらいの期間と、冬・春休み二週間ほどであろうか? 豪雪地帯では冬休み及び春休みが長かったり、国が違えば秋休みなんて存在も珍しくない。その辺りにも意外と地域の特色が出たりするものだ。

 さて、ごくふつーの一般的な女子高生な少女をひとり、例に取って夏期休暇の過ごし方をみてみよう。 
 おかっぱ頭を振りかざし、キビキビと歩く姿はまるで名工の手による和人形。凛々しく釣り上がった眉がより一層その雰囲気を強めている――まぎれもなく美をかしらに冠される少女。
 通う学園クラス名はリリアン学園高等部の一年生。お嬢さま量産工場と名高い、あの“リリアン”である。名を二条乃梨子。又の名を白薔薇の蕾と発します。成績は極めて優秀、先生がたへの受けもよい。趣味は……ぶ、仏像観賞ぉ……? 

 ……あまり一般的ではない例を取ってしまったようだが、くじ引きで決めれば、こういう事態も引き起こる。あまり気にしないで先に進もう。と、とにかくそんな彼女の夏休みの過ごし方をすこし覗いてみるとしようではないか。




魔法使いとの出逢いかた





 二条乃梨子は帰宅する途中だった。夏休み前半を利用した軍資金稼ぎ、又の名を長期アルバイトからようやく開放され、もとい定例の夏期山百合会会議を終えて、姉との逢瀬も滞りなくすみ、一人帰宅の途についたのだった。
 さて、二条乃梨子は冷静沈着である。くーるびゅーてぃの化身……それは言いすぎだとしても、年齢に似つかわぬ落ち着きを持っている。シニカルで論理的であるという一面も持っているが。そこのところ、今代の紅薔薇の蕾にも見習って欲しいものである。……皮肉屋の一面をもち冷静で百面相をしない福沢祐巳。……怖い、かもしれない。

 閑話休題。話がそれた。二条乃梨子は、冷静沈着であるが故に大抵の事では驚かない。
 例えば、福沢祐巳が髪を下ろしてきても、すこし不思議に思うだけ。例えば、小笠原祥子嬢がいつもの如くイライラしていたようが、いつもの事と思うだけ。
 たとえ、島津由乃が急に剣道部に入部するといっても、そんなこともあるかと受け止める。たとえ、支倉令がよしの、よしのと叫ばなくなっても、また叫ぶようになるだろうとサラリとかわす。
 たとえば、彼女の姉――白薔薇さまこと藤堂志摩子が“乃梨子のコト、好きよ”なんて仰っても……ちょっと、否、かなり嬉しさを噛み締めるだけで驚きはしないと思う、タブン。

 そんな彼女をして、その足運びを止める物体が落ちていた。色は黒。元はかなり鮮やかで質の良いモノだったのではなかろうか。いわゆる、黒いズタ布である。それが、法が改正される前のゴミ袋よろしく道路の真ん中に落ちていた。そりゃ、もう。見事に落っこちていた。

「……?」

 基本的に善人な少女である。年頃の少女らしい好奇心も持ち合わせている。これで正体不明――(仮称)黒いゴミ袋のような物体――に近付かない事があろうか、いや、ありえない(反語)
 乃梨子はわずかに躊躇った後、近付いていく。もしもゴミ袋だとしたら、指定場所まで持っていかなくてはならないだろう。それ位の問題ならば、まぁ許容範囲内だ。そんなことをつらつら考えて進むと……正体不明物体と瞳があった。一目会ったそのときから、恋の花咲くこともある。ある意味で言えば、それは運命だったのかもしれない。
 絶対運命黙示録。……過剰な装飾文章は控えめに。

「……」
「……」

 世界が停止した。



 視線が合っちゃった。浮浪者よろしく、道端に倒れていた黒ローブ姿の人物と目が合った、あってしまった……。このときの乃梨子の心境を表すとすれば、こうだろう。やべぇ、チョーやべぇ。

「……えっと、どこかご病気でも?」

 絶対障壁もかくやな心の壁を作って、表面上は礼儀正しい通りすがりを装う。さっきから本能が危険コールをシュピレヒってた。いわゆる関わらない方が良い類の人種なのだろうけれども、声をかけてからでは遅すぎる。

「……大丈夫。ちょっと寝てただけだから。ありがと、娘さん」
「そうですかそれは良かったでは私はこれにて」

 路上で寝る人間は普通いませんとか、娘さんって貴方も充分娘さんの範疇に入るでしょうとか。様々な疑問が渦巻いて、タイフーン被害総額5億yenってなもんだったけれど、理性のちからでねじ伏せ、ノンブレスで言い放ち、立ち去ろうとする。
 が、それは甘いってなもんですよ、お客さん。ガシッと乃梨子の右足首を掴んで離さない、離れないというべきか。その様、まるで蜘蛛の巣にかかった餌を捕食しようとする女郎蜘蛛。この状況下で、そうやすやすと獲物を見逃す性格とは無縁の存在だったのですよ、その正体不明の人物は。

「そう、慌てなさんな。慌てる乞食は貰いが少ないっていうじゃない?」
「謝礼ヲ求メテデハ、アリマセンカラ。オ気ニナサラズ」

 片言、めっさ怪しい。一方、寝てたにしては流暢過ぎる口調、詐欺師でも見ている気分だ。闇色のローブから覗く面は美しかった。西洋人みたいに彫りの深い顔立ちで、エキゾチックな雰囲気も兼ね備えている。それだけに奇行が目立って、正直、勘弁して欲しい。

「まぁまぁ……」

 食い込まんばかりに右肩をつかまれ、動きを止められた。ミシミシミシ、なんて音が痛覚つきで届いてくるのは、はたして気のせいだろうか。気のせいと思いたい乃梨子であったが、現実の痛みが邪魔してた。現実って厳しいよね。

「お礼しなきゃ、マジックレディ・シュガー☆の名が廃るわ。是非とも、お礼させてくれないかな?」
「結構で……いえお願いいたしますですハイ」

 白い入道雲、抜けるような青い空。溜息をつきたくなって、大空を見上げてみた。現実逃避なんて洒落たことしてみたりする。今日という日は厄日なのだろうか。真上を向いていないと……大粒の、涙がこぼれおちそうになるからッぁ!

「とりあえず……何か希望を言ってごらん?」
「特に……ありませんけれども」

 警戒心バリバリで、しかし件の人物の対処法を見出したのか。きわめて普通な会話を成功した。異文化コミニケーションって奴だね。なんとなく外国の人と話している気分になった。コミニケーションという観点でいえば、より難易度が高い気がするのは、果たして気のせいか。

「そう言われてもねぇ、……うーん。じゃ、こうしよう! 私が何個か選択肢をだすから、その中から選らんで」
「……辞退はなしですか」
「モチ」

 深く溜息をついた。あぁ、どうやら本当に今日は厄日らしい。いや、それを言ったらリリアンに入学してからイイことなんて数えるほどしかない。入学したその日から運が落ちて、騒動に巻き込まれやすくなってしまったのではないか。そう思考すると、お先真っ暗な気分になってしまった。……しょっく。

「まず、1番。んーと……貴方の愛しいお姉さんと楽しい一日を過ごしたい。に〜ばん……」
「ちょ、ちょっと待ってください。なんで志摩子さんのこと知ってるんですか!?」

 らしくなく大声を上げた。個人情報が握られているのか。乃梨子の脳裏に不吉な単語がよぎる。個人情報の漏洩、架空請求、人身売買。年頃の少女らしく逞しい想像力をふんだんに使用して、不幸な想像は何処までも果てしなく続いていく。

「ナニ簡単な推理だよ、ワトソン君。君の制服から想像するに、リリアンの高等部に在籍している。そして首にかけられたシルバーチェーン。それはロザリオ……でしょう? それらから推理するに、君には“お姉さま”と呼ばれる存在がいる……どう?」
「……」

 沈黙する。賞賛や感心の前に、呆れが先に出た。魔法女性マジックレディと名乗ったクセに、明晰な推理を見せた。Detective探偵と名乗った方が良いんじゃないだろうか。頭の回転が速い割りに、やっていることは奇行そのもの、とてつもなくアンバランスだった。

「ンじゃ、続けるね。2番……」

 言葉を途中で切って、いきなり考え込むポーズをとる黒ローブ。一々、オーバーリアクションを取るのには理由があるのだろうか。そうしないと死んでしまう、とか。理不尽である。

「んー、面倒くさいから2番の願いをかなえるよ」
「へっ?」

 アバウトだ。ものごっつアバウトな答えを返された。キョトンとした表情と間の抜けた声が、いつもの乃梨子らしくなく、妙に可愛らしい。
 で、そうさせた当人はというと……ものごっつイイ笑顔でした。純度100%、愉しさ百点満点、十周年にダイヤモンドの輝きを。メダパニってます、現在。

「んじゃ、そーいうことで。愉しみにしててねーーーーー」

 乃梨子が正気に返る前に、スタコラサッサと駆け出していた。どこからか……判るような判りたくないような声が聞こえてくる。“あばよー、とっつぁん”
 ルパン・ザ・サードだった。統一性のない人間だった。




 次の日、薔薇の館に来てみれば。乃梨子最愛のお姉さまが、黒いフリフリ付きのドレスみたいな格好――いわゆる黒ゴスに身を固めてました。正直、萌えた。




 教訓――佐藤聖に気をつけろ、というところで如何でしょうか?






 
オチてないまま終われ。


(041225 作成協力ぶぁいす様)



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